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病める無限の芸術の世界

芸術に言い訳する方法ばかり考えています。

似ているものの美学

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パクリとかオマージュとかが流行ってます。
たしかにパクリとかオマージュは、それが倫理的かどうかとか色んな問題を持つけど、明らかに美学的な問題。
ぱっと思いつくだけでも、オリジナリティ(originality)、創造性(creativity)、美的 / 芸術的価値(aesthetic / artistic value)、意図と解釈(intention and interpretation)などなど、めちゃめちゃある。

それを踏まえるべきとはいわないけど、踏まえると解決しそうなところもある。

そのうえ、色々ごっちゃにしている記事もある。

azanaerunawano5to4.hatenablog.com

ちょうどいいのでちょっと整理する。

以下引用は出典が書いてないときは上の記事から。

デジタル / アナログ

デジタル画像についてのいくつかの整理 - 9bit

松永さんが詳しいので、詳しくは書きませんが、美学的にデジタル / アナログ(digital / analog)とか言うときには、グッドマンが引かれる事が多い。
グッドマンの言うデジタルは、あるしるし(indication)が記号システムにのっとっているかどうかで決まる。
たとえば、音楽は鳴り響き(sound)としてはアナログ(機械じゃない)かもしれないけど、音楽作品は音構造(sound structure)からなる記譜(notation)にのっとったものなので、デジタルである。
グッドマンはダンスまでデジタルだって言ってる。

で、ここでデジタル / アナログの話は手仕事かどうかとして使われているけど、そこから模写とか贋作の話に持っていくのは微妙い。

全く同じ複製を作れるのは、デジタルのいい部分でもあり悪い部分でもある。
絵画というのは、アナログ。
そしてデザインと絵画は全く異なる。

 絵画がアナログ(手仕事)だからといって、デジタルにコピーできないわけじゃない。
人間の分解能で識別不可能な絵画のコピーを機械が作ることはたぶんすごく簡単。
コピーがアナログかデジタルか、分解能で識別できる判断の話をしているのか、存在論的にデジタル / アナログだって言っているのか、複製可能な話をしているのか、色んな問題がごっちゃになってるよ。

オリジナルとコピー

オリジナルと全く同じ手法、その画家の描き方も完全にトレースする。
素材も当時のものに近づけることで再現率を高め、レプリカを作り上げる。
模写は「オリジナルの要素を感じ取り自身の絵として再現する」
贋作は「オリジナルと全く同じコピーを作る」
前者と後者は、似ていても全く違う。

オリジナル(original)という言葉には、二つ意味がある。
独創性がある(inventiveとか?)という意味と、コピーをしてない作者の唯一無二(unique)だという意味。
少なくともそれが複製でない限り、コピーも基本的には後者の意味でオリジナル。
だから別に贋作にもオリジナリティはあるよ、複製にはないよ。

森村泰昌は普通に両者の意味でオリジナルだと思うので、まったく意味のない例だと思う。

模写と贋作の区別は全然違う。
贋作の定義も色々あるけれど、少なくとも欺瞞的であるという点では同意がみられる。
グッドマンの定義から議論が出ることが多いので、グッドマンの定義を引く。

「その作品がオリジナルでために不可欠な制作の歴史(history of production)を持っていると、偽って(falsely)称している(proporting)対象」である。(Goodman 1976: 122)

 あと、ラウトレッジのカンパニオン*1だと、似てるけど欺瞞的であるものは贋作(forgery)、欺瞞的でないものは偽作(fake)と呼ぼうと提案されている。
これに同意する人がほとんどだと思います。

さらにいえば、この人が言っている贋作は、レヴィンソンがいう参照的贋作(referential forgery)に限定されている(Levinson 1990)。
それと対比されるのが、創意ある贋作(inventive forgery)。
カンパニオンから引用します。頁忘れました。

「参照的(referential)」贋作とよばれる徹底的に非独創的(unoriginal)な贋作は、ある既存の作品を、すべての汚れまで(mark for mark)コピーする。一方で、特定の芸術家または特定の歴史的期間のよく知られたスタイル(style)をまねることで贋作者が生み出した作品は、「創意ある(inventive)」贋作と呼ばれる。

 明らかにいわさきちひろ問題とか佐野問題は、創意ある贋作の方なので、議論がうまくいってないよ。

類似と再現

類似だから何かを再現しているというのは最近の描写の哲学では叩かれてきたよ。
僕は詳しくないので勉強しますが、グッドマン、ウォルトンとかに結構叩かれています。

まとめ

アナログ / デジタルの議論はびみょい。
オリジナルとコピーは定義があやふやだし、言わんとしていることをあらわす言葉になってない。
類似だからパクリみたいなのはよくない。
あとは認知的持ち合わせ(cognitive stock)*2とか、知識や文脈が関わっているとかを言わなきゃ。

語彙まとめ

本当に書きたかったのはこっち。

贋作とか模写とかの似ているものに関する美学の語彙は意外と整理されていない。
とくにネットだとアウラとかで贋作を定義しようとかいうのがあってうーむなので、僕のためにもまとめる。
間違いがあったら指摘いただけると助かります。

模倣(mimesis)

模倣が多分いちばん美学的に大事な概念です。
これが長らく美学を支配してきました(17世紀半ばくらいまでは)。
重要そうなのは、まずプラトン
芸術は、イデアの写しである現実の世界のそのまた写し(模倣)だからよくないよとした。この時代の mimesis は「演技して模倣する」という意味がある(はず)。
あとバトゥー。
『諸芸術を単一の原理に還元する』で、これまでばらばらだった arts(アール)を beaux-arts(ボザール)に還元しようとしました。

贋作(forgery)

グッドマンの贋作の定義は先ほどだしましたあれです。
やっぱり偽っているとか欺瞞的であるというのが大事。
あとコピーに比べて、コピーや複製でカバーできない創意ある贋作(inventive forgery)を含めることができるのもいいところ。
創意ある贋作はパスティーシュとかも含む。

コピー(copy)

色んな文献を見る限りでは、模作だけに限定されない。
つまり、機械が写したり、手で写したりなど似ているものを作ること一般とその所産一般が対象になっている。
平易な言葉で、変な含意を入れたくないときに使う。

イミテーション(imitation)

オリジナルをオリジナルでない素材でコピーしたもののこと。
本皮製品を合皮にしたり。
あと模倣とか再現がこの語で言われることもあるよ。

模型(model)

実物に似せて作られたもの。
コピーとの違いは、ある部分を強調したり変更したりできる(構造模型とか)ところと、実用できないというところ(こっちが大事)。
例えば、人体模型は人体じゃないし、プラモデルはガンダムじゃない。
あと、美術的には、赤瀬川原平の千円札は、「千円札としての機能を剥ぎ取られた千円札の模型」と彼が称しているよ。

複製(reploduction)

ベンヤミンで有名だよ。
大事なのは、作品の同一性が保たれたレベルで複数のものが存在すること。
だから、100回ある映画の上演のうち、どれが真作でどれが贋作とか偽作とかいうのはないよ。

けどそれはあくまでベンヤミンの語法で、広く見ればコピーやレプリカとほぼ同じ意味で使われることが多い。

ヴァージョン、ヴェアリアント(version, variant)

作家自身が作った作品で、ある作品の一部を変えて出した作品。
連作とはまたちょっと違う。

レプリカ(replica)

僕自身微妙な言葉。
昔は、同一工房の模作とか同一作者によるコピーとかの意味があったけど、レディメイドとかもレプリカというようになっているからよくわかんない。

引用(quotation)

そのままです。
何かの作品の一部を引用したもの。引用先がオリジナルとかではない。

パロディ(parody)

パロディで大事なのはあくまで、何かの作品の要素を批判的に・滑稽的に引用したということ。パロディしているものがオリジナルかどうかとかは関係ない。

パロディなのにオリジナリティ云々はちょっと違う。

 

一応平坦な意味だけ書いたつもりですが、パクリはこの中にどう含まれるかとか、グッドマンのアログラフィック・オートグラフィックが含まれるとどうなるとかは、また難しい。

*1:これです。

 

The Routledge Companion to Aesthetics (Routledge Philosophy Companions)

The Routledge Companion to Aesthetics (Routledge Philosophy Companions)

 

 

*2:訳語知らないです。