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病める無限の芸術の世界

芸術に言い訳する方法ばかり考えています。

リディア・ゲーア「音楽作品の唯名論的理論」

分析美学 音楽哲学 美学

Goehr, Lydia. 2007. "A Nominalist Theory of Musical Works." In The Imaginary Museum of Musical Works*1. Oxford: OUP, 13-43. (ゲーア, リディア. 2013.「音楽作品の唯名論的理論」福中冬子訳. 『ニューミュジコロジー:音楽作品を「読む」批評理論』所収, 89-127, 福中冬子編訳, 東京:慶應義塾出版会. )

 

音楽作品の形而上学プラトン主義が流行ってる。

唯名論のまとめ論文。

 

 


何かと有名になった論文(というより邦訳)。

音楽の存在論に詳しいわけではないけど、たしかにグッドマンなりレヴィンソンなりを読んだあとにこれを読むと何がなんだかわかんないところが結構ある。

北野先生の指摘についても適宜参照した*2

 

音楽作品の存在論に関する話。
序盤の存在論的立場が特に役に立ったのでまとめる。 

 

音楽作品の存在論に関しては、主に4つの立場がある。

プラトン主義 (Platonism)

 プラトン主義は、音楽作品を音構造(sound structure)からなるある普遍者(universal)として想定する。

純粋なプラトン主義は、さらにそれを自然種であると考える。

代表的な論者はウォルターストーフ。

彼は音楽作品を自然種としてとらえたため、創造はされず、作曲家が発見したものだとする。さらに、それは規範種(norm kind)でもある。

作曲家の「創造」を守りたいプラトン主義者もいて、彼らの立場は修正プラトン主義と呼ばれる。

代表的な論者はレヴィンソン。

彼らは、音楽作品を構造タイプとし、さらに、「始動されたタイプ(inotiated type)」であるとする。

始動されたタイプというのは、音楽作品は自然種ではなく、そのため創造可能であるという論脈で導入される。

基本的に音の構造が作品であるという立場は共通する。

まとめてあります(ジェロルド・レヴィンソン「音楽作品とは何か」 - ertb

アリストテレス主義 (Aristotelianism)

 アリストテレス主義は、音楽作品を演奏や楽譜に示される本質であると考える。

それは音の類型(pattern)や構造(structure)なので、抽象的だが、演奏や譜面といった実物においてしか存在しない。

代表的な論者はウォルトン。

彼は作品を、それぞれの演奏の中に示される音の類型だとした。

また、面白い規定で、作品は、楽譜が特定する音+楽器の規定の構造パターン-良い演奏のために楽譜に含まれる助言である、とする*3

唯名論(nominalism)

 唯名論は、音楽作品を何か抽象的な存在だと考えない。

演奏の集合が作品の外延であるとする。

マルゴーリス*4は書いてある通り唯名論ぽくはない。

抽象的個別(abstract partocular)という特殊な考え方をしている。そこでは作品は事例を持つため抽象的でありながら、創造されないので個別である。

グッドマンは唯名論的。

音楽作品を、譜面に対応する(comply with)演奏の集合であるとする。 そのとき、譜面は演奏の集合を唯一つ決定する〈文字〉(character)*5である。

グッドマンの理論の要約と改変になっているPredelli, 1999がまとめてあります(ステファノ・プレデッリ「グッドマンと譜面」 - ertb

 

クローチェ・コリングウッド主義 

 クローチェやコリングウッドは、音楽作品(及び芸術作品一般)を観念だとする。

彼らにとって、音楽作品は楽譜を書いたときや初演されたときに作り出されるものなのではなく、音楽作品は作曲家の心の中に形作られる観念である。

また、聴者がそれを想像的に経験したものも音楽作品であるとする。

これは観念と作品と経験がごっちゃになってるまずい論で、受け入れられなかった。

 

 

 

*1:この The Imaginary Museum という概念、初出はマルローの『空想の美術館』だと思うのだけど、原題 "Le Musée imaginaire" は「空想の」ではなくて image によるという意味、つまり画像によるという意味らしい。

*2:これです。(http://gpwukitano.blogspot.jp/2013/11/1.html

*3:グッドマンは変わった唯名論ですけど、音程、持続、リズム以外は演奏を区別するための個別的な規定にしかならないと考えているのと似てますね。

*4:Joseph Margolis かつてマーゴリスとして紹介されていた哲学者。今はマゴーリスという表記を見ることが多いけど発音聞くとマルゴーリスにしか聞こえない。

*5:筑波批評にならってこうしている。うまい訳語が見つからないけど符丁はなんか違う気もする。